2008-09-23

大地の詩 /Yukon2008


「ジュノーの海をカヤックで漕いでキャンプした夜、すぐ近くで鯨たちがブォーっと会話をしていて、その声を聞いたら、何故か涙が頬を伝ったんだよ、理由もなく」

「裸になって川で体を洗っていたら、シカが二頭やってきて、角をカチカチならして喧嘩した。負けた方が、僕のそばにきて、「君は僕の敵?味方?」って聞くんだ。敵じゃないよ、と伝えたら、二頭とも、安心して近くにやってきて、楽しそうに水浴びを始めたんだ。」




北のホステルに集まる旅人は、不思議な魅力を持った人が多いけれど、彼もそのひとりだった。クイーンシャーロットから北上を続け、星野道夫のトーテムポール儀式に偶然出席し、ジュノーで鯨と出会い、そしてチルクートトレイルを歩いてきた、彼とは、ホワイトホースの、とても清潔でとてもよいエネルギーの流れているホステルのキッチンで、出会った。



この夏、同じ時期にクイーンシャーロットにいたんだねぇ、と、トーテムポールの話をしたホワイトホースの宿の朝、

Joeのギターに乗せて聴かせてくれた、やわらかな歌声響いた焚き火の夜、

動物とはちゃんと心静かに向き合えば会話できるはず、という意見で一致したユーコン川岸の夕暮れ、



辿る道筋が互いに何度か交差し、街で、川で、少しずつ話をする度に、彼の持っている世界に惹き込まれていった私だが、それというのも、

彼の、世俗離れした雰囲気と、無邪気に、どこまでも穏やかに心の真ん中に直球で入ってくるこの感じは、人間というより、野生の動物に出会ったときのような錯覚をおこさせ、森の動物と会話しているかのような、妙な気分になるためなのだった。


彼、「大地」くんの、これまで歩んできた人生と、夏から続けている北の旅と、ギターの旋律の一部かのような歌声と、旅の途中にクレヨンで描いてきたという絵と、そのどれを見ても聞いても、ああ、本当に深く深く、名前の通り大地と繋がっている人っているんだ・・・、と気づかされ、世俗の匂いぷんぷんしている私何ぞは、ひっくりかえっても彼に敵うわけはなく、

少し悔しく
すごく羨ましく、

でも、森のグリズリーに出会えたときと同じような幸福感を味あわせてもらえたことに感謝しつつ、最後にもらった小さな絵を机の片隅に飾りながら、大地くんの、今も続いているであろう旅の無事を祈るのだ。

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