2010-04-27

指先で味わうフレンチ/クラヤミ食堂潜入記

▲写真、クラヤミ食堂ブログより拝借

肩が凝ったらマッサージに行くように。

五感が鈍ってきたら目隠ししてご飯を食べるといい。

感覚のツボが面白いほどにぎゅうぎゅうと刺激され、文明生活で凝り固まって鈍くなった感覚をやわらかくすることができるから。



昨年、闇を体験するイベントDialog in the Dark に行き、視覚を遮ることで得られる感覚がずいぶんとお気に召した私は、今回、「目隠しをしてご飯を食べるイベントがあるよ」と聞いて、一も二もなく飛びついた。

クラヤミ食堂。

神楽坂の裏道にひっそり佇む、こ洒落たホテルでいただくフランス料理。1万円を超す参加費は、今の私の生活にはずいぶんと贅沢な出費だけど、きっと払うだけの価値はあるはずだ。



入り口でアイマスクを渡され、ワインのふくよかな香りがプチプチと充満している会場へと案内される。席に腰掛け、真っ暗な2時間の始まり。手探りで、テーブルに置かれたナプキンを身につける。

一品目に気づいたが、フレンチ、というのがミソだった。
これが和食やイタリアンなら、使われている素材が分かりやすいし、過去の経験値から「知っている」料理を脳裏に思い描けるのだろう。だが、フランス料理なんて、一番馴染みが薄いうえに、複雑なソースで調理されてしまっているので、何でできているのか、自分の引き出しから引っ張りだしてくることが難しい。まあ、どれもこれも、「はじめて」出会う料理たちなのだった。

何を口にするのか分からないのは思った以上に不安なもので、正体を暴こうと、これまた、声しか分からぬ同席者(一緒に参加した友人とは別のテーブルに案内されている)と、「魚?」「いや、貝のにおい」「スモークされてるね」と、必死に情報交換を始める。

遮られた視覚を補うべく、残された嗅覚味覚聴覚触覚が、ぐるんぐるんとフル回転し始める。鋭くなった嗅覚は、ワインが赤か白かといった単純な違いを離れ、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランの差ですら、簡単に認識できるほどだった。香りも味も全然違うのだ!


だが今回、一番使った感覚は、味覚や嗅覚でなく、意外なことに触覚だった。指先で得る情報。

指で皿の形をなぞる。四角。丸。ボーンチャイナの、ひんやりとした重さと固さ。ワイングラスの形もワインによって毎回変わってる。お皿の上にある食材を、触って確かめる。熱さ。冷たさ。やわらかさ。

指先で把握した情報をもとに、脳裏の真っ暗なキャンパスに、皿の上に描かれたシェフのアート作品を正確に描いていく。それは思っている以上にカラフルな絵となり、見ていないはずなのに、はっきりとビジュアライズされ認識されていく。

シェフのイマジネーションに追いつけるか。
想像力とセンスが試される。

このスープはガラスの器。スープの色は赤。
このきなこと抹茶のデザートにかけられたリボンは緑色。
アスパラガスが筆なら、墨汁役のソースは真っ黒に違いない。


食事を、単に味覚だけでなく、全体の構成、皿の大きさと形、色遣いと、他の角度から、ここまで楽しんだことが、未だかつてあっただろうか(いや、ない)。
舌と胃だけでなく五感全部がお腹いっぱいになった夜だった。



Dialog in the Darkとは少し趣旨が異なり、かなりイベント性の高い、都会人の遊びである気はするけれど、この闇ゴハン、悪くない。おススメです!

注:闇アルコールは、いつもより早く酔っぱらう。

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