2010-06-30

哀しみの羊



TMB(ツールドモンブラン)170キロを一人で6泊7日でぐるりと一周して文明社会に戻ってみれば、韓国料理屋の女主人に「ヤーパン頑張ってるわね」と言われ、そういえば世の中はワールドカップだサッカーだと盛り上がっていたんだっけ、と途切れた記憶が戻ってくる

こちらにきて初めてタイミングよくテレビの前に座れたのでじっくりと腰を据えて観戦すると

あまりにも切ない結果が待っており

哀しくなって胸がいっぱいになってしまった私は、庭に出て、隣家が飼っている羊に会いに行き、道ばたのたんぽぽの草をやる。ウール100%のふわふわの服をきた彼らは、メーメーと無邪気に寄って来て、平和な顔で草を食みつづける。

夜9時。外はまだ明るく、昼間のぎらぎらした太陽も姿を消し山から谷へと吹き抜ける風が涼しく気持ちよい。夕食で食べた湯でジャガイモ(今日は外食続きで荒れた胃を休めるための粗食デイ)バターと海塩&ハーブがけの、シンプルにして最高に甘く美味しいその味を舌の感触を幸せに思い出しながら、そのまま牧草地帯をゆるゆると気ままに散歩する。「今日は何キロ、あの峠まで歩かないと」というプレッシャーの中で歩いていた昨日までとは違うゆるりとした時間は気持ちを穏やかに戻してくれる。

牧草地のむせるほどの草いきれ、こおろぎのような虫の音、松林の枝の間をすり抜けるそよ風、雲一つない空の遠くに描かれる一筋の飛行機雲、西の空のピンク色に染まった山の稜線、

観光地も高い山も氷河もいいけれど、

こういう何でもない場所の何でもない時間こそ、本当は誰かと共有したいと思えるような、チロルの牧草地帯夕方9時の散歩は、もったいないことに共有できる人もなく、ひとり静かにすぎゆくのだった。

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