2010-02-27

都会人のための夜の処方箋

カナダの森の奥から 
巣穴でひっそりと春を待つ動物の使者が
アスペンの葉っぱを持って私を呼びに来る

おいでよおいで
僕を探しにおいで

わたしは
マイナス10度の空の下ダグラスファーの木の下で眠れるように
暖かな羽毛のふとんをもって
声の主を確かめに
カナダ行きの飛行機のチケットを握りしめ
出発する


 

都会人のための夜の処方箋 
Nächtliches Rezept für Städter


どのバスでもいい、乗り込む事。
いちど乗り換えてもかまわない。
行先は不問。いずれわかってくる。
ただし、夜を厳守のこと。


いちども見た事の無い場所で
(当件にはこれが必須の条件)
バスを降り、闇の中に
身を置くこと。そして待つこと。

眼につくものすべての寸法を取ること。
門、破風、樹木、バルコニー、建物、
そのなかに住む人間。
冗談でやっている、とは思わないこと。

 それから町を歩くこと。縦横無尽に。
あらかじめ見当をつけないこと。
たくさんの通りがある、じつに多くの!
どの角を曲がろうと、その先にまた多くの。


散歩にはたっぷり時間をとること。
いうなれば高尚な目的のため、
忘れられたことを呼び醒まそうとするのだから。
一時間もたてば十分だ。

 
そのときはもう、はてしない通りを
一年も歩いたような気になるだろう。
そして、自分が恥ずかしくなってくるだろう、
脂肪過多の心臓が。


このときふたたびわかってくる、幸福に眼をくらまされず、
心得ておくべきことが。
自分は少数はなのだ!ということが。
それから最終バスに乗ること、
バスが闇に消えないうちに......
 
 (エーリッヒ・ケストナー Erich Kästner)





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