▲2007.8 Matanuska glacier, Alaska
いつみても、部屋に入るたび、腹筋トレーニングしているのだった。
先日、ファーストエイドの講習で一緒に仕事したデブは、アラスカからこの講習のために、やってきた女性。数日間、同じ部屋で寝起きをともにしたが、わたしが、朝ジョグから戻ったとき、朝食の後、夜、シャワーから戻ってきたとき、デブはいつでも隣のベッドで、持参のバランスボールに上手に座り、腹筋をし続けながら、静かに明日のクラスの予習をしていた。
こんなに部屋に何日も閉じこもっていると、からだ鈍っちゃうわよねー、と言いながら、次はスクワットを始めたデブに、私は、いつものように、アラスカの話をねだる。
イーグルリバーの5エーカーの土地に建てた家にはテレビがなく、代わりに大きくとった窓から見える景色、庭につくったジップラインの高さが5mあって、友人から「デスライン」だ、と恐れられていること、飼っている犬とのトレイルの散歩、ガイドをしているマッキンリー山エクスペディションの様子、家族から遠く離れて住むアラスカの「遠さ」・・・。
もともと、ウィスコンシンでドクターになるために勉強していた学生時代、ふと訪れたアラスカが、人生を変えたのだ、という。それまで、山に登ったことなんてなかったけれど、わたしは、この場所に住もう、ここしかないと決め、そして移り住んだ。医者になる代わりに、野外ファーストエイドの専門家になり、友人たちと毎週出かけた山は、いつのまにか、山岳ガイドという仕事の場所にもなっていた。
アラスカから東京に戻ってくるたびに、わたしは、混んだ電車に乗ることが怖くなり躊躇ってしまい、家になかなか帰れない、と告げると、The city is too stimulative. 音も色も情報も、刺激が多すぎるしね、とデブは同意してくれた。
「ryokoも、氷河を旅したならわかるでしょう?氷河の上は、白と青だけの世界で、音もなく、生物もなにもなく、匂いもない。2週間、3週間、あのなかで過ごして、久々に白と青以外の色をみると、それが、黒い石ころでも、久々の茶色い土でも、そこに懸命に生きている小さな植物たちの緑色でも、なぜだかとてもほっとするの。
もともと都会に住んでいて、今も都会に住む家族からは、そんな森の中に住むのは寂しくない?と、聞かれるけれど、でも、静かになればなるほど、その森は、自然が奏でる音楽で満ちあふれていることに気付かされる。今の季節は、ウィローが、雪の重さに耐えかねて、乾燥した空気のなかで、ポキッ、と折れる音が好き」
翌朝、わたしは、いつもよりも注意深く森の音を聞きながら、高尾の、住宅街にわずかに残された雑木林の中を走った。
1 comment:
“デブ”って彼女の名前なんですか?それとも"fat girl"なんでしょうか?
でもバランスボールの上で腹筋しながら、翌日の予習なんて出来るんかい…?
まぁ、毎朝ジョギングを欠かさない人も、いつも腹筋している人も、私から見れば、敬服するばかりです。
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