2009-10-02

後ろ髪引かれ(Mt.Decoeli登頂記13)


@Kluane NP, Yukon Canada

道のない場所を歩いてゆく

手には1/50000のtopo map

どのルートを歩いていくのがいちばん得策なのか
一歩一歩判断しながら
頭の中はぐるぐると常に忙しい

氷河から流れ出た飛び上がるほど冷たい川を横断するのか
熊におびえながらの背の高さもあるウィロー林に入り込み藪漕ぎするのか

砂場に残った動物の足跡
滑る岩場
今の葉擦れの音は風?動物?

緊張感とぎれない中
それでも同時に

秋の終わりのこの晴れた1日を
歩き去ってしまうのがどうにも惜しく

写真を撮りながら
後ろを何度も振り返りながら

忙しく景色を楽しみながら
原野を歩きつづけた

風が起こしてくれた夜(Mt.Decoeli登頂記12)

@Kluane NP, Yukon Canada

この日は
静かな静かな夜だった

1日動き回り疲れ果てて眠っているわたしを
風が

テントのフライを
ぱたぱたと
遠慮がちにノックして
呼びにくる

夜中11時40分
ワタリガラスもマーモットももう寝静まった静寂の中
ふと目を覚まし

テントからはい出てみると

天井は降ってきそうな星たちが
瞬くことも忘れてただ光り続ける

北の空には
今シーズンはじめて見るオーロラが
やはり遠慮がちに
ひらひらと踊りつづけていた

起こしにきてくれた
風よ
ありがとう

blue sky (Mt.Decoeli登頂記11)



@Kluane NP, Yukon Canada

the Morning Glow(Mt.Decoeli登頂記10)

@Kluane NP, Yukon Canada


Still Keep Climbing (Mt.Decoeli登頂記9)



@Kluane NP, Yukon Canada

2009-10-01

from the peak (Mt.Decoeli登頂記8)





@Kluane NP, Yukon Canada

無風、快晴、ひとりきり
緊張感と開放感にアドレナリンの興奮をプラスした
独特のこの感覚のなかで

1時間歩いては1時間休憩し
30分歩いてはまた1時間休憩し
下から沸き上がる雲に少しおびえて
次はまた1時間歩く

ベースキャンプから半日で往復できる距離を
丸一日かけてゆっくりと歩いた

山脈の奥にはローガンがそしてアラスカが
ここまでおいでよと手招き

いくら見続けても見飽きない景色が360度広がっていて
途中からカメラを取り出すことすら忘れてただ見入る

岩と雪だけの無機質な世界を彩るかのごとく
時折ワタリガラスがコロコロと歌いながら通り過ぎてゆく

青色絵の具を溶かしたかのような完璧な空を
非情な飛行機雲がまっ二つに引き裂き
山の彼方へ消えていった

「人生って素敵だね」
ここに来る前に会話した友人とのことばを反芻しながら
引き裂かれた空を見上げ寝転がる

autumn to winter (Mt.Decoeli登頂記7)


@Kluane NP, Yukon Canada

ぬくもりある寝袋から出難く一瞬躊躇うが
肉体的欲求が(トイレいきたい)と
脳にスルドク訴えかけくるその
本能の声に逆らうことはできず
テントから這い出してみれば

昨晩の強風は
この谷に冬を一気に運びこみ
たった一晩で、季節は移り変わっていた
見事なくらいに冬がそこにいた

山の稜線の向こうから
ようやく顔を出したあたたかな太陽が
視界すべてをオレンジ色に染め上げ

凍り付いたツンドラの大地を私を
じわじわとでも着実に
とかしてゆく


霜の降りた大地はやわらかな光を受け
辺り一面本当に一面すべてがキラキラと輝き
凍り付いた夜から目覚め
ざわざわと息を吹き返し始める

ああ、これが私がつかみ取った景色
今年いちばんに美しい時間

寒さも
尿意も
息をするのも忘れて
ただただ呆然と立ち尽くす

2009-09-30

朝の月 (Mt.Decoeli登頂記6)

@Kluane NP, Yukon Canada

誰もいなくて何もない、
頼れるのは本当に自分だけ、という大自然のなかで
一晩過ごすと

自分の息づかいと大自然の鼓動が徐々に重なっていき、

覚悟をした、ということなのか、自分の弱さを受け入れた、ということなのか、うまく説明はできないのだけれど、いつのまにか、「恐れ」は「畏れ」へと静かに変化し、心は、波ひとつない鏡のような湖面ほどに、しん、と静まりかえっていた。

しん、と静まりかえったのは私の心だけでなく、外の世界も同様で


朝、目覚めると
昨晩、私を恐怖に陥れた風は見事にぴたりと止んでおり
圧倒的な静けさのなか、

昨晩より一層白く雪化粧した山肌と
群青色の空に光る一筋の月が

おはよう

と、優しく微笑んでいた

凶悪な顔をした雲が(Mt.Decoeli登頂記5)

@Kluane NP, Yukon Canada

それにしても、風が強いのだ。
ブルーベリー林を超え、無事「熊問題」からサヨナラしたと思いきや、今度は、「風問題」勃発だ。


ただでさえ、山の中で、本当に本当に一人きりとなり、微妙に心細いところに、この、容赦なく吹きつける強風といったら、唯一露出している頬をみるみるうちに冷やしていく。頬とともに、一生懸命、気合いで灯し続けている、心のなかの小さな勇気という名の「明かり」も冷えてきて、心がそのままポッキリ折れそうになるくらい、風は相当に強い力で、私に向かってくる。

風がやってくるその方向に目を向ければ、ぐるぐる渦巻く凶悪な顔した雲が、西の山にべったりと張り付いて、この自然の中ではあまりにもチッポケな私とテントを見下ろし、あざ笑っていた。


寝ている間にテントが吹き飛ばされないよう、大きめの石を集めて補強しながら、数日前、ソロ登山家tomoと話した会話を思い出す。

「雨よりも雪よりも、風が嫌いだ」と言う私に、「そうかな。僕は好きだよ。風は、powerだから。遠くから、powerを運んできてくれるんだ。エネルギーの源、という感じがするな。」

ああ、tomoさん、やっぱり全然パワーの源じゃないよ、エネルギーを私から吸い上げる犯人だよ、この風は・・・、と、すっかり弱気になり、早々に、寝袋にもぐりこむ。



遠くで、マーモットが、キュゥー、と甲高い声で一声鳴いた。