2009-05-29

暗闇のエキスパート/DIALOG IN THE DARK


不思議なイベント。
暗闇のなかで過ごす1時間。

前から何度か耳にしたことはあったけれど、行ったことはなかった。が、今回、知人からの一押しがきっかけで、参加することに。

教えてくれたその彼女とは、出会ってまだ2回。彼女の何を知っているわけでもない。いつも静かで多くを語らず、それでも、言葉の外で発している、彼女が纏っている空気感・存在感が、ふわふわとやわらかで心地よく、だから、最初に会ったときから、すっかり心許していた。

その彼女から、「これ、お勧め」と、何も感想もつけずに送られてきた簡単なメールその一言だけでチケット取る気になったのは、彼女の価値観は、自分のそれと遠くない、と思ったから。

人の行動って、不思議。
人の直感って、大切。

結果、今、このイベントにであえたのは、数年前、「地球交響曲」を観て腰を抜かしたくらいに、ぴったりのタイミングだった。たった1時間の暗闇が、数時間経った今もまだ、ぼわぁーんと私を包み込んでいる。



暗闇のなかで過ごす1時間。

知っているはずだった。

キャンプする。山に入る。
夜の森に入れば、都会生活者には、びっくりするほどに相当な暗さで、だから、自分は「分かっている」と思っていた。暗さには、慣れているはずだった。

が、本当の、左右上下「闇」「真っ暗」な世界は怖いのだ。森のなかにいたって、よく考えれば、そんな闇は、避けてきたじゃないか。月明かり。星。雪。ヘッドランプ。怖さを中和させるほのかな「光」を得て、夜を楽しんでいた。

目が見えない。何も分からない。
恐怖に足がすくんで一歩も踏み出せない自分を救ってくれたのは、アテンドのサトちゃんの温かで力強い声。彼は、暗闇のエキスパート(またの名を視覚障害者)と、パンフレットに書かれている。語弊を恐れずいうと、「障害者」は、五体満足な私よりも、何かが「欠けていて」「大変な」人、という位置づけだった。

違う。

自分の技術を越えるアウトドアフィールドでは、ベテランガイドを雇うように、

この場では、サトちゃんは、恐怖から私を救い安全にナビゲートしてくれる、心強い「ガイド」だった。彼は、「闇」というテクニカルな状況で、私の何倍もの情報処理ができ、きちんと安全をもたらしてくれる、頼もしいエキスパート。尊敬すべき人だ。

丸腰で暗闇に臨んだ、弱い弱い自分は、

普段あるはずの
プライドも恥も衒いも捨て去って、
サトちゃんに、そして一緒に歩く周囲の人に、助けを求める。彼等に導かれて、進みだす一歩。

そして徐々に気づく自分の感覚。

足の裏。
手で触る何か。
匂い。
音。
頬に感じる風と温度。

ぐるぐると忙しく、普段は怠けている「感覚」たちが目を覚まし、脳に周囲の状況を忙しく伝え出す。

気づけば、怖いはずの暗闇に慣れていた。視覚以外の感覚が情報を集め出し、徐々に、怖さがシュルシュル消えていくのと反比例して、歩けるようになっていた。

1時間後、久々に出会う豆電球なみの明かりを「眩しい」と戸惑う。

夜、自宅に戻れば、いつもは静かな家の中が、隣の家の足音、遠くの車、雨粒の音、冷蔵庫の金属音、パソコンの電子音・・・、ずいぶんと煩い家の中に変貌を遂げていた。 たった1時間の暗闇、が。



DIALOG IN THE DARK
「目以外のなにかで、ものを見たことがありますか? 

暗闇の中の対話。 鳥のさえずり、遠くのせせらぎ、土の匂い、森の体温。水の質感。 足元の葉と葉のこすれる枯れた音、その葉を踏みつぶす感触。 仲間の声、乾杯のグラスの音。 暗闇のあたたかさ。 

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、まっくらやみのエンターテイメントです。 参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、何人かとグループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験します。」


外苑前で開催中。アラスカで感じるのとはまた違ったふうに、感覚が研ぎ澄まされる時間が、まさかの都会のどまんなかに。

もし参加されるなら、このイベント後に予定は入れず、ゆっくりと余韻を楽しむ時間をもつことをお勧めします。そして、友達とでなく、ぜひ一人参加で。



ついでに、
心細さ、人とのつながり、人が「どこの誰か」でなく「個人」として扱われる感覚、素直に自分の弱さを認めること、他人のあたたかさ、感覚が鋭くなっていく感覚、心地よい時間、忘れがたい余韻感・・・、は、

アラスカやユーコンの旅にも、共通するものがすごくあって、
だから、私は、北の旅に携わり続けていきたいのだ、と、再認識できたのが、今回の一番の収穫。

北の地で五感フル活動の旅をしよう
(宣伝じゃないよ。お知らせ)

7/19-7/29  West Coast Trai  Backpacking/ B.C. Canada

8/9-8/16   Alaska Sea Kayak Camp /Alaska

8/25-31 Yukon Tombstone Park / Yukon

9/5-9/13   Yukon Canoe Trip / Yukon

No comments: