「鯨のさ、潮吹きの音だったんだよ。シュー、シューってさ」
1年半ぶりに再会した友から、昨夏アラスカでの冒険話を聞いた。
グレーシャーベイにパドリングに行って、キャンプをしたんだ。
ある日、海岸沿いにテントを張った晩、異音で目が覚めた。テントのすぐそばで、動物の動く音がする。
びっくりしたよ。熊かと思って飛び起きてさ、ベアスプレーを握りしめ、息を潜めて、恐る恐る覗いたテントの外にいたのは、なんとさ、岸近くまでやってきた、鯨だったんだ。潮吹きの音がすごいんだ。シュー、シュー、ってね。その勢いとエネルギーに、すっかりのまれてしまったよ。
キャンプの最中は、オオカミの遠吠えもたくさん聞いた。一匹が鳴き出すと、共鳴して、あちこちで、ウォーン、ウォーンって鳴き出すんだ。一斉にね。
陳腐な言葉になっちゃうけど、こういうのって、本当に豊かな時間だよね。
田舎にある小さなリゾート施設の、薄暗いバーのカウンター。酔って陽気な人々の喧噪のなかで、それは、ほんの10分ほどの会話だった。彼は決して饒舌な方ではなく、訥々とした話し方なのだが、でも彼の口から嬉しそうに紡ぎ出される言葉は、音も匂いも光景も、何故だかくっきりと輪郭を持って伝わってきた。彼が圧倒されていたであろう空気感が、そのまま伝わってきて、嬉しくて、にやにやしながら、その話を聞いた。
彼が今まで出会ってきた世界を、
そしてこれから出会っていく世界を、
次はいつどこで分けてもらえるんだろう、なー。
(・・・そのときまではウエブサイトで我慢)
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