きっかけは、本番1週間前、ナミちゃんとの電車内での会話だった。
な「野辺山ウルトラマラソン出るんだって?」
私「うん、(100キロの本命レースじゃなく)71キロの短い方ね。71はゴールが温泉だからさ」
な「去年私出て、8時間20分で走って7位だったんだよね〜。6位までが表彰されるからさ、betty狙えるんじゃない?」
は!?
入賞?
この瞬間まで、ここ2年半ほど楽しんでいる「走る」レースにおいて、自分が表彰台に上がるなんて考えたこともなかった。ちょっと前までは、「無事走りきれるのだろうか」って、「完走」が目標だったほどのダメダメなんちゃってランナーだ。
ただ、2年も走っていると、さすがに、徐々にではあれど、走る体力も筋力もついてきている。
3月のロゲイニングでうっかり優勝して手にした賞状は、小学生だか中学生以来、ひさびさに手にする「賞状」で、たいそう気持ちが良かった記憶の残骸が、私のやる気を後押しし・・・、魔が差したのかもしれない。
入賞、の二文字が頭をよぎりはじめた。
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1年前に参加した萩往還70キロは、弁当休憩30分を入れた上で9時間13分。
3月のフルマラソン42キロは、3時間49分。
今回は71キロ。標高差1000m以上ある坂道だけのコース。
できるかな?
うーん、1キロ7分って、そんなに早いペースじゃない・・・よね?
10時間の制限時間内完走は、よっぽど体調がおかしくならない限り、今の私には無理じゃない。坂道71キロ走るのは、カンタンとは言わないが、決して自分の「限界」への挑戦じゃない。
1キロ7分ペースX71キロ=8時間17分、
うまく行けば賞状のご褒美がついてくる。
よし、これを今回の目標に設定してみよう。
その日私は家に帰ると、PCを開き、エクセルでチマチマと途中チェックポイントや10キロ地点ごとの経過予想タイムを計算し、一覧表に仕立て上げる。小さくプリントアウトして、当日、ポケットにそっと忍ばせる。 こうして、密かな目標値を抱え、野辺山71キロの走る旅は始まったのだった。
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標高1000M前後の高原は、一番好きな気候帯だ。
瑞々しい森の空気を肺に取り込む気持ちよさ、残雪の八ヶ岳、南アルプス、富士山、芽吹いたばかりの唐松のやわらかな緑の葉、白樺林、たんぽぽ畑、エイドでいただくお汁粉、そば、おにぎり、いちご、オレンジ、ぶどう、一緒のペースで走る人との会話、1日中何も考えず邪魔されず走れることのヨロコビ、
・・・いろんな要素で幸福感に包まれ、途中までは、本当に楽しく、ニコニコとご機嫌で走っていた。
が、59キロのチェックポイントで、とうとう悪魔の壁がやってきた。
昼11時半。朝5時にスタートして、もう6時間以上が過ぎている。 随分と真上に上がってきた5月の太陽がアスファルトに照りつける暑さと、7時間近く動かし続けてきた手足胴体のストライキ突入モードのせいで、走るヨロコビは、一気に走る苦しみへと転落する。
63キロ以降、容赦ない上り坂が続く。道路端の標識には、斜度10%と出ていて、さらに私をげんなりさせる。
あーん、歩きたい、歩きたい、歩きた〜い!
何だかこうやって書いてみても、あの時間あの場所にあれだけ走っていた人じゃないと、「もう走るのやめて歩きたい」誘惑の力強さは理解できないんだろう、と思うけれど、今の私の持つ実力からすれば、「歩く」方に脳内99%が賛成するほどの辛さだった。イヤガラセのような登り坂が、えんえんえんえん、どこまでも続く。どこまでも、終わることなく。
それでも、最後まで走るのを止めなかったのは、「歩こう」モード99%の賛成票をかろうじて押しとどめた残った1%の意地は、最初に自分に課した目標タイムがあったからに他ならない。ゴール時間を設定していたから、設定した自分に対して意地になった。
結局、スタートから8時間10分38秒後にゴールした私は、予定どおり6位に滑り込み、今年2回目の賞状を手にした。賞状が嬉しいのではない。設定目標をクリアするために走り抜いた、最後8キロの自分の気合いと底力に乾杯!なのだった。
でも、と、その一方で、ふと、思うのだ。
5位との差はたったの1分半。 もし目標を「8時間以内」と設定していたら、あと10分早くゴールできたのかな。
私は、設定した壁は乗り越えられたけれど、その壁は、もう少し高くても、もしかしたら乗り越えられたのかな?(あの登坂の辛さが喉元すぎた今、また、楽観的なこと言っているだけかもしれない・・・けど)
人は、線を引いた場所まではちゃんと歩いて行けるし、 逆に言えば、線を引いた場所までしか、歩けないんじゃないだろうか?
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100キロ走るウルトラマラソンの世界は、何だかとても奥が深い。
参加者それぞれが、自分の限界に挑戦しているのだ。私がゴールした71キロの後には、さらにきつい峠道が待っていて、本当にイヤラシイ道のりがまだまだ続くらしい。その未知の29キロを想像しながら、100キロのゴール地点に立ち、完走者に拍手と声援をおくる。電車の中で私に「入賞」をささやいたナミちゃんは、今年は100キロを走り抜き、私の目の前で涙を浮かべてゴールした。
速く走れるのはもちろんすごいが、それだけじゃない。制限時間30分前くらいになって、次々とヨレヨレとなった体で駆け込んでくる、ヨロコビに満ちた人々の姿は、数メートル先に立つ私の胸を思い切り打つ。
ああ、人間、いくつになってもチャレンジなのだな〜。
人が自分の限界に挑戦する姿、それを達成した瞬間は、有無を言わさぬ力強さと美しさがある。ものすごい充実感に包まれる。自分も、周囲にいる人たちさえも。 その力強い充実感を、手っ取り早く体験できるのが、超長距離マラソンにはまる理由のひとつなのかも。この手の達成感は麻薬のようで、リピートしたくなるものだ。より強い刺激、より強い達成感を求めて。
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フルマラソンとは全然違う競技の超長距離レース、M気の強い人にはたまらなくお勧めです。最近、チャレンジ足りていない方、よければ、この苦しく楽しい世界をのぞいてみては?
3 comments:
71キロ、100キロって、、、。人間、そんなに長い距離を走れるものなんだなあ。凄い凄い。しかも、舗装道路も走ってるの?足にきつくない?私なんて、昼休みに5キロほどトレイル走って満足してますけど!71キロも走れるって、私みたいな人からは本当に驚異です。
昼休みに5キロ走るってのもスゴいような…そんなことしたら、午後は疲れて仕事になりません。
私は週に1回、4kmほど走るのがやっとです。71キロも走れるって、私みたいな人からは本当に脅威です。
SweetRiverさんのように、近所に大自然があれば、えっちらおっちら走ったりしてないはず。スキーして、カヌーして、トレッキングしてるでしょう。
私にとって走るとは、コンクリートジャングルの中での補償行為です。いつ森にいく機会があっても、100%楽しめるよう、体力をアイドリングさせておくための。
らぐじ〜さんは、毎週ラグビーやってるでしょう?だから、走る必要なんかないんじゃない?
それから、超長距離の私の走り方ですが、
71キロ走るんじゃないんですよ。
15キロごとにあるエイドステーションを目指して、それを5回くらいやれば、合計71キロ、って考え方です。意外と誰でもできるはず〜。
9月は110キロにチャレンジ。
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